un deux droit

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マシュー・サイド「多様性の科学」

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「多様性が大切である」という言説はもう聞き飽きたぜ、という人にこそ騙されたと思って読んで欲しい本。

「多様性って『わがまま』を都合よく言い換えただけだろ?」と辟易している人に出くわすことは非常に多い。組織の統率が取れない。かえって効率が悪い。組織への貢献意欲が減退する。様々な理由をつけて「多様性の拡張」を妨害しようとし、「画一性」への憧憬を隠そうとしない。

確かに画一性は一見整然としていて美しい。北朝鮮のマスゲームの如く。しかしそこに個性はなく一人一人の感情は抹殺されている。もちろん「特定の事柄を抜かりなくやり遂げる」という限定的なミッションには画一性が求められる。しかし日常生活においてそのような性質のミッションを与えられる機会はことのほか少ない。複雑で曖昧な物事にうまく立ち向かうには「画一性」が大きな障害になる。

この本では、チームメンバーの特性や背景の画一性に潜むリスクを明らかにすることから始まる。そして多様性の効果の発揮を阻む組織文化や人間特性について探求した後、人間がいかに多様な性質を持っているのか、という認識のリフレッシュをさせられる。人類が多様性の化学反応をうまく扱えないことで、いったいどれだけの果実を取りこぼしてきたのだろうか。そんなことに思いを馳せてしまう内容でもある。

多様性は慣れない人にとっては居心地の良いものではない。意見の多様性、人種の多様性、文化の多様性、価値観の多様性。自分の考えがすんなりと受け取られず、平気で否定されたり、対立したり、ということがひっきりなしに起きる。「同調されないことへの苦しみ」は画一性の世界にどっぷりと浸かった人間にとっては耐え難い苦痛のはずだ。だからその抵抗も壮絶である。どうにかして多様性を駆逐しようと躍起になる。結果として「角を矯めて牛を殺す」羽目になる。

しかし、虚心坦懐にこの本を読めば、実は多数派なんて存在しないことがわかる。全員が実は少数派なのだ。誰の考えだって等しくマイノリティなのだから、臆することなくごく個人的な意見を表明することを躊躇う必要はないのだ。多数派を気取ったマウンティング野郎にキャスティング・ボートを握らせたままにしてはいけない。

失敗の科学も面白そうだ。読んでみよう。