un deux droit

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エンゲージメント調査にご用心

経営企画部がエンゲージメント調査を実施し、その結果がオンライン会議にて全社員にフィードバックされた。「フィードバック内容に関する率直な感想を共有し対応策について考えるグループワークをします、そのワークで使ったシートで施策に反映できるものはしていきます」とブレークアウトルームで乱暴に振り分けられた、さして交流のあるわけでもない社員たちで空白のシートを見つめ合って「なんだかね」とため息を漏らした。



「従業員の声を経営施策に反映」

その掛け声自体は、さも民主的な経営体制を心がけています、というアピールに見えるし、企画した経営企画部にもそのような風通しの良い会社であると従業員に受け止めてもらいたい魂胆があるのだろう。しかし、その方策として従業員の「意識」を問うというのは、控えめに言ってペテン師のすることだと思う。

「会社のビジョンに共感している」「職場のメンバーと助け合っている」「マネジメントの指示を理解している」「仕事で実現したいことがある」…設問のそれぞれはいかにもそれらしい文言が立ち並ぶ。なるほどそれらの設問は、確かに組織が健全に機能しているかどうかを左右しそうな指標に見える。しかし答える側の立場に立てば、それらの設問にNOと答えることは、さも自分が「勤める会社のビジョンも理解せずに働き、同僚とも協力せず、上司の指示もろくに聞いておらず、職業上のビジョンもないやつである」と自白しているような感覚に陥る。問いが絶妙に嫌らしい。「経営施策は会社のビジョンに沿っている」「職場のメンバーは困った時に助けを求めやすい」「マネジメントの指示は的確だ」「この会社は自分の職業上の人生における目標を叶えられる組織だ」そう問われれば自己評価を切り離して会社の現状について客観的な評価を下すことができるだろう。

前者の問いであれば肯定的な回答が増え、経営陣は安直に「経営に問題はない」と解釈し、何も改善されない。仮に否定的な回答が増えても「そう解釈する従業員側のレベルが低い」と逃げ道を残す。結局経営陣に対して現状維持を追認するような碌でもない結果を招く。現に当社では肯定的な回答が増えたし、否定的な回答の多い設問については「現場がたるんでいる」と経営陣がさらに労働環境を切り下げる口実を与えている。経営企画部よ、君たちはどっちの味方なんだ。

意識調査は自身の健康状態を自覚症状だけで判断するような愚かさによく似ている。体重計に乗り、血液検査をし、レントゲンでも取れば残酷なまでに数値化された不都合な現実を否応なく突きつけられる。しかしそれをせずに「身体に不調があると思いますか」とだけ問われて素直に不調を訴えられる謙虚な人間は少なくともこの会社の経営陣にはいない。暴飲暴食の限りを尽くし、完全に内臓が破壊されて強制入院させられるまで生活習慣を改めない。

あるいは不衛生でセクハラ発言やセクハラ行為を連発し男尊女卑の思想を隠すこともせず、暴力的だがモテたいと恋愛カウンセラーに相談に来る男といったところか。

こんな生ぬるい調査をせずとも、経営がガタついている言い逃れのできない具体的な事実はいくつもある。

「役員の一人がオフィスで寝ている」
「スライド勤務で遅く出社したら重役出勤だと役員から嫌味を言われた」
「従業員にはジョブ型雇用だと言って給料切り下げたのに、役員報酬は黙って積み増している」
「顧客の声に基づかない新規事業を無理やり推進し、何億も溶かしているが未だにリリースの目処がたたない。しかも頑なに顧客の需要量を調査しない」
「メンタルダウン者や退職者が続出している。その誰もが特定の人間のマネジメントによるハラスメント事案を訴えているが黙殺している」
「在宅勤務で対応可能な業務にも関わらず出社を強制される。いくらその必要性のなさを説いても聞き入れない。逆に必要性を証明しろと言っても何も出てこない。出社しないなら給料を下げると圧力をかけてくる」

もうネタは上がっている。四の五の言わずにさっさと問題を直視し対処しろよ。話はそれからだ。