un deux droit

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ストライキを意味あるものにするのは私達の責任

そごう・西武労働組合が8月31日にストライキを打った、というニュースを目にした。

事実関係が一番簡潔にまとまってるのは以下の記事かな。日本の新聞では断片的にしかわからないのがなんとも情けない。
www.bloomberg.co.jp

組合員は4000人いて、そのうち西武池袋百貨店で務める900人が、8月31日の1日間、勤務をすることを拒否した、ということらしい。その日のお給料は当然出ないので、組合が日頃積み立てている闘争積立金で全額補填されるだろう。このストに組合員の9割強が賛成したらしいので、4000人が毎月払った組合費の積立で、900人の1日分の給与を補填することを肯定し、他店舗の従業員もその行為を応援したという形になった。

世の中の反応を見ると、まずほとんど反応していない。反応があっても、否定的な人はあまりいないが、どちらかと言うと「そんなんして意味あるの?」っている冷笑的態度が多いように思う。かく言う私自身も、ストライキという行為のもつ意味について今ひとつ確信を持てないでいる。

でも、それって世の経営者・株主の思うツボなんじゃないだろうか。数で言えば圧倒的大多数の「労働者」サイドが「ストなんて意味ね~」って思っている状態って、経営者と株主に対して「私達の人生煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」と空手形を乱発していることになると思う。

今回のケースでは、まず親会社のセブン&アイホールディングスがアメリカの投資会社に株式を売却した。売却益は2200億円だ。売却に伴ってそごう・西武側への貸付金のうち916億円を放棄。実質的には1300億円弱のキャッシュをホールディングスはゲットすることになる。残りの債権は763億円残っているらしいが、仮に1円も回収できなくても、550億は残る。じゃあそのお金はどこに行くのだ?という話だ。当然、ホールディングスが全部持っていき、その他の投資に回したり、経営陣の給与を維持する原資としてストックされる。

一方で、雇用されている側はどうなるだろうか。西武池袋本店はヨドバシに買われるらしい。家電量販店だ。全然違う仕事である。しかも、雇用を維持するという確約をセブン&アイは投資会社に取り付けていないで売却している。そもそも家電量販店で仕事あるよと言われても嬉しくないし、他の系列の百貨店で雇用を吸収してもらえるあてもない。何もかもが宙ぶらりんで、親会社だけ売却益たんまり抱えてトンズラ決め込んでいるのだ。そりゃ怒るだろと思う。

百貨店の斜陽化は今に始まったことではない。だからストを1日打ったところでその趨勢は変わるはずがない。そんなことは組合だってよくわかっているだろう。問題は、そのツケを従業員だけが払わされそうになっているということだ。百貨店がオワコンだなんてずっと前からわかっていたじゃん、そんなところにしがみついてるから路頭に迷うのだと言うのは一見筋が通っているように見えるけれど、それは本来経営者にも等しく向けられる指摘なはずなのだ。いや、采配を振るう経営者のほう「だけ」が指弾されるべき問題だ。しかし彼らは責任を取って自らのポケットマネーで916億を捻出したのか?誰が報酬を一円でも返上したり、責任を取って退任したか?誰もしていない。その結果一文無しのすってんてん、借金漬けでホームレスになったのか?絶対そんなわけない。潤沢すぎる社内留保からクリック一つで相殺しただけだ。彼らはびた一文痛みを味わっていない。絶対に割りを食わない仕組みの中で左手うちわである。いつから経営者はノーリスクになったのだろうか。最悪借金取りに追われて夜逃げするリスクを負っているからこそ普段高禄を食んでいるのではなかったか。

「ホールディングス」なんて書くと、どこか人間の臭いのしない、実態のないものに見える。しかしそこには確実に「生身の人間」がいる。佐藤か高橋が田中がいる。少なくとも組合はその生身の人間と対峙している。そいつらが敗戦濃厚と悟った瞬間、戦場で戦う兵士たちをそのまま放置して、退却指示を出して兵士たちの身の安全を図る責任も取らず、自分たちだけこっそり亡命してトンズラこいたわけだ。この卑怯な行為を、私達はいま、「経営判断」として追認しようとしている。


とりあえず経営陣は、550億の取り分について、残された従業員の生活が路頭に迷わないようにお手当するところから始めるべきだ。

そして私たち「労働者」は、経営者の責任について敏感になって、正当な分け前を要求することを思い出そう。そしてそうやって頑張って戦っている「仲間」はしっかり応援しよう。そうやってストライキを「意味あるもの」に育てていくことが、庶民の知恵なんだと思う。