un deux droit

このブログには説明が書かれていません。

【書評】出口治明「復活への底力」


出口さんが病に倒れたというニュースを知り、闘病期間が長かったので、さすがの出口さんも引退かなぁ、と思っていたのだが、カムバックしてきた。思ったより深刻な病気で、だからこそその復活劇は信じがたいものがあった。その顛末を余すところなく書き切った闘病記が本作。転んでもただでは起きないというか、新書という土産付きで帰ってくる逞しさが出口さんらしくて心躍る。

脳の病気を患い、半身不随、会話もままならない、という深刻な状態からのリハビリスタートで、そこからの記述が頭脳明晰なのが本当にすごい。自分の現状認識を言語化できるとは思えない病状を、その病を患った本人が記述している。もちろん様々な人の助け合っての執筆だとは思うが、それでも本人の体験、実感は本人にしか表現できない。自分の思いを何も伝えられない、他人が何を言っているか理解できない、という状態なのに、本人の内部の思考はフル回転している。これは貴重な記録だ。

自分がいずれ病に倒れた時に、こんなふうに運命を前向きに捉え、克服できるだろうか。今のところその見通しは全くない。出口さんのように、人生を賭けて成し遂げたい目標がないと対抗できないと思う。逆に目標があり、その達成への迸る情熱さえあれば、その途中のどんな困難も楽しめる。目標のある人間はここまで強くなれる、という希望の書。