un deux droit

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会社選びで最も重要なこと

緊急事態宣言以来、ほとんど仕事もせずダラダラと本を読んだりランニングしたりして過ごしているが、それでも変わらず給与を払い続けてくれるいい加減な会社に勤めている。給与は高くないが、縛りもゆるゆる。在宅で全てが完結するようになって、ついに時代が来たな、という感じ。
なんで自分はこんないい加減な会社を選んだんだっけな、ということを久しく忘れていたのだが、就職活動を始めて最初に参加した説明会の体験が発端だったなということを思い出した。
それは私の通う大学向けに開かれた合同説明会で、母校は地方では一番手の大学だったから、大手処がごそっと揃っていた。案内の但し書きには平服でお越しください、の文字。こういう時はもちろんリクルートスーツ、という決まりごとは理解していた。私はそのことを十分に理解した上で、ちょっとしたいたずら心であえて私服で会場に潜入してみた。
すると会場は取る方も取られる方もスーツ、スーツ、スーツの山。ある程度予見していたとはいえ、そのあまりにも画一的な雰囲気に、この先の就職活動と就職した後の絶え間ない同調圧力を想像して心底うんざりしてしまった。だめだ、ここにある会社のどれにも受からないし、何かの間違いで受かってしまっても活躍できない。そんなことを一瞬で悟った。偏差値的にはもったいないけれど、人間性的に大手は無理だと諦めた。
失意のうちに会場を後にしようとすると、一つだけ学生が誰も寄り付いてないブースがあった。スタッフは皆私服で、学生サークルのような雰囲気。場違い感丸出しで、居心地が悪いのか見た目のチャラさの割に小さく丸まって縮こまっている。案の定、会場内で最も人気のないブースだった。憐みの気持ちでしげしげと眺めていると、スタッフの女性から声をかけられてしまった。久々の客だったのか、その社員は先程のお通夜の雰囲気から一転、爛々と目を輝かせて、自社のアピールを必死に行っていた。明らかにやる気のない私服の学生と泥臭い熱血社員のマンツーマン。その滑稽な雰囲気が面白くなってしまい、「東京に就活するときは立ち寄ってみます」と言って資料を持ち帰った。

その後、就活でしばらく東京の友人宅に居候している時、先程の会社の説明会がタイミングよく開催されていたので冷やかし半分で参加申し込みをしてみた。会場に到着して私は面食らってしまった。地元ではお目にかかれない巨大さの超高層ビル。カリン塔みたいにてっぺんが雲に突き刺さってんじゃねーかと思った。ラグジュアリーな雰囲気満点の会場に着くと、明らかに只者ではない雰囲気の学生たちがびっしりとひしめいていた。定食屋だと舐めていたらハンター一次試験会場でしたみたいな戸惑い。ちょっと違うか。


自分が無知なだけでとんでもなく儲かっている会社かもしれない。参加者は服装自由という案内の額面通り、ほとんど私服だし、社長はおもろいしでこれは明らかに当たりを引いたと思った。質問する学生もわざわざ大学名を名乗ったりする無駄なアピールしない。最終面接は社長とサシだと言うので、一度この社長と話がしてみたいなと思って選考に進んでみた。
いくつかの選考をクリアして、残り数十人、社長面接を決勝戦とするならば準々決勝にあたる選考まで進んだ時、明らかに雰囲気が変わったのを感じた。待合室はデスノートのLみたいな見た目の人間がぞろぞろと集い、浮いているのは逆に自分だけになった。いやなんかルービックキューブいじっとるし。こんな天才のテンプレートみたいな人間が実在するとは…なんで俺残したん…すっかり雰囲気に飲まれた私は、散々な面接となった。「この会社で何したいの」「特に考えてません。社長が面白そうだから受けてみました」案の定準々決勝で脱落した。


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以上が3ヶ月前の書き残し。以下追記。


大企業もダメ、尖ったベンチャーもダメ、となりヘンテコな中小企業に的を絞った。その中で最初に内定をくれたところに入社を決めた。決め手は「我が社で何をしたいですか?」と聞かなかったことだ。他の会社は必ず面接のいずれかの段階で、入社後にやってみたい仕事のイメージを聞く。そしてその質問をしてきた会社はことごとく落ちた。そんなもの働いてみないとわからんだろ。学生のくだらない妄想を聞いてどうするのだ。どうせそんな希望が叶うような会社などないだろう。私は内心そんな反発をしていた。そして唯一、全ての面接でその質問だけを私に聞き損ねた会社に、今私は勤務している。

社会人生活を10年以上続けて、学生時代の「仕事のイメージをあらかじめ持っておくことは無駄だ」という信念はどうなったか。半分的外れで半分は的を射ている、というのが結論である。しょうもない会社では真面目に構想してもその構想に耐えうる理念が明確な事業などないので無駄だ。そして社会人生活で出会った、理念のある会社で働く人は、高確率で個人のワークビジョンが明確な人ばかりだった。つまり、そういう会社で働く権利を得るには、自分がどのような能力の発揮と組織への貢献を果たすのか、明確なイメージが不可欠だ。身もふたもないけれど、適当な会社は適当な理由で入れるし、ちゃんとしてる会社はちゃんとした理由がないと入れない。目的意識のない人間が目的意識の高い組織に入ろうと目論むから就活が苦しくなるのだ。自分の本心に忠実に、身の丈にあった会社を探しさえすれば、案外効率よく仕事は見つかると思う。

ちなみに冒頭の企業。当時は誰も見向きもしない無名のベンチャーだったのに、あれよあれよという間に超有名IT企業へと成り上がった。あの就職説明会に誰も寄り付かないブースを出していたことを覚えている奴などほとんどいないだろう。自分の先見の明だけは誇らしく感じている。