un deux droit

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勇者とエクスカリバー

妻が転職した。アサインされるチームメンバーとの顔合わせをしに、明日から早速東京に行く。ほんの2日間だが、気持ちの安らぐワンオペ生活を満喫する予定。

妻が不意に、前職を辞めた理由について語り始めた。その理由の一つとして意外だったのが、「会社役員として登用する声がけが終ぞなかった」というものだ。おお、そんな野心があったとは意外である。

妻曰く、別にそういう出世欲はないし、頼まれても断ったが、客観的に見て今いるメンツのなかで一度も候補に挙がらないことに違和感を覚えたのだそうだ。社歴や実績は十分だし、かなりセンシティブな経営判断に係る相談を、社長からオフレコで何度も受けてきた。何なら会社のビジョンの言語化、新社名、ロゴなど、根幹のブランディングは全て妻が手掛けていた。そこまで深層の部分をアウトソースしてきた相手に対しての扱いがぞんざいじゃないか。そんなことを感じたらしい。

現に、妻が入社して以降、何人か執行役員の退職かあったがその都度外から補充したり、妻よりあとから入社した社員が抜擢されたりすることが続いた。そのメンツが妻より能力が高ければ何も不満がないが、妻からすると明らかに自分よりレベルの低い人材だったようだ。自分がこれから何をどう頑張っても今の役割以上の期待はされない。そう悟ったことが離職の決め手となった。

妻の話をロープレになぞらえて聞いていると、妻の(元)社長は妻のことを同じ旅のパーティの一員としてではなく、伝説の武器かなにかだと思っていたんだろなと推察する。社長視点で見ると、勇者たる自分が最も重用しているエクスカリバーが妻。もちろんエクスカリバーを得るために数々の困難を乗り越えたし、大枚もはたいた。そしてその切れ味が錆びつかないように日々入念にメンテナンスを怠らない。しかしどこまで行っても「刃」に過ぎない。妻の自覚としては勇者の戦闘を支えるアーチャーがヒーラーか魔道士のつもりで、その一軍として認められないことに傷ついていたのだが、そもそも(元)社長のカテゴライズが妻の自己認識と決定的にズレていた。とても不幸なすれ違いだ。

これからのキャリアを考える上で、今の勤め先の経営陣が自分のことを今評価しているかは実はそれほど大事ではない。それは今後の頑張りである程度逆転可能だ。しかし自分のことを「人間」と「武器」のどちらでカテゴライズしているか、というのは死活的な問題だ。なぜならば、その認識を改めさせるのは非常に困難だからだ。

もちろん武器としての生き様もある。持ち主の主義主張を問わず、自分により高値をつけてくれた人へと、あるいはその武器の使い手の熟練度のより高い方へと、転々と渡り歩く生き方だ。しかし自分を「パーティ候補」として見てもらいたいと願うなら、そういう扱いをしてくれる会社を探し回るしかない。妻は次の会社でも有用な武器扱いされるのだろうか。それとも妻の望む人間扱いを受けられるのだろうか。妻の性格やコミュニケーションの癖を考えると、どうにも武器としての生き様しか見えてこないのが心苦しい。