un deux droit

このブログには説明が書かれていません。

「良い店員」は出逢うのではなくて、引き出すもの

私はこれまで生きてきた中で、印象に残った店員さんは一人もいない。

ご飯のおかわりを頼むとき、ズボンの裾上げを頼むとき、ちょっとしたプレゼントを買うとき、私は必ず店員さんに話しかけている。しかし、店員さんは皆、私が要望したものとまったく相違ないものを私に提供して、速やかに去っていく。それでしかるべきと思ってきたし、生きていくうえで何ら不都合なことはなかった。

思うに、どこかに素敵な店員さんがいて、私がたまたまことごとく邂逅をしそこねていたのではなく、私が店員さんの「良いところ」を引き出すコミュニケーションをしてこなかったのだろう。

そのことに気づいたのは、妻と付き合い始めてから。妻のお気に入りの洋服屋さんが天神のパルコにあった。足を踏み入れるやいなや、
「あ~、ミサちゃん(妻)お久しぶりです〜♥♥」
と馴染みの店員さんらしい人が駆け寄ってくる。
「今こういうの探してて〜」
「それならこっちにおすすめのコーナーありますよ〜」
と軽快にやり取りを重ねる。店員さんは手早く商品の売りを紹介した後、
「それではごゆっくりご覧くださいね〜」
と引いてゆく。なんともちょうどよい絶妙な距離感。妻はそれがさも当然という素振りであれこれ服を見ている。結局妻は、最初に言っていたのとはまったく違う、セール品でもなんでもない服を2着購入した。
「すごくお似合いと思います〜〇〇なシーンとかでも使いやすいですし〜」
と、店員さんは自分の勧めたものと全く違うものを買われても表情一つ変えなかった。
「アクセサリーにこういうのと合わせるのもおすすめですよ〜」
と小物のさり気ない追加購入を促すと、妻も
「いつも使ってたの壊れちゃったからちょうどよかったわ」
と応じる。なんだこの洗練されたやり取り。私は唖然とした。


「また来てくださいね〜新作は〇月2週目から並びますのでぜひ〜」
そうやって店員さんから丁重に見送られたあと、
「いつも店員さんとあんな感じなの?」
とつい聞く。

「なんか変だった?」
「いや、別に変ではない。ただやり取りがさばけてて」
「あ~あの人お気に入りだからいつも行ってるの。いい店員さんのとこで買ったほうが気持ちいいでしょ?」
そう妻はうそぶく。

なるほどそんなものなのか、とその時は納得したのだが、妻と付き合いを重ねていくと、どんなジャンルのお店でも、一見でも常連でも関係なく、妻は店員さんに「よくして」もらっていた。「ものを購入する」「サービスを提供される」以上のコミュニケーションを、多くの店員さんと取っていた。なんか、買い物一つとっても楽しそうだなあ、と少し羨ましく感じたのを覚えている。

「なんか店員さんに良くしてもらう秘訣はあるの?」
ある日妻にそう尋ねた。すると、妻はこう答えた。
「まず行動とか話し方とか見て、この人ダメそうだな〜と思ったらその日は立ち寄らないかな」
「え、目当てのものがあっても買わないの?」
「買わない」
「え、じゃ店員さん変わったら行かなくなるの?」
「そうよ、だって天神のパルコのあの店、もう行ってないじゃん。あの人やめちゃったみたいなんだよね」
その時初めて私は、そういやしばらくパルコに行ってないなということに気づいた。妻の中でまさかそんな意思決定が既に行われていたとは。そのあまりのバッサリ感に戸惑いを隠せない。

「じゃあいい店員さんの秘訣って何?」
「そうねぇ〜まずはちゃんとおすすめを勧めてくれることかな。こっちの話を聞いて、それに一番合致するものを持ってくる。そこのセンスが私とあってればオッケー。向こうが売りたいものだったり、誰にでも同じのおすすめしてるなってやつのところには次から行かない。そういう意味では毎日が勝負だよね。こいつセンスねーなって思われたらお客さん来ないんだから」
そうしれっと恐ろしいことを聞いた。私がやってるBtoの営業より遥かに熾烈。いつもではないが、お気に入りの店員さんが辞めて、別の店に勤めているらしいという情報を入手したら、その店に顔を出してみることもあるらしい。自分の世界には存在しないメカニズムだった。

「あとは自分の勧めたものじゃないものを持っていっても嫌な顔しないとかだね。たまにプライドなのかちょっとだけ食い下がってきて自分のオススメ再プッシュしてくる人がいるんだけど、それもNG。あなたのセンスは認めているからここで買っている。でも自分の欲しいものがそれじゃないこともあっていいでしょ?自分の紹介したものと自分の価値をごっちゃにしちゃう人、面倒なのよ」

それ、私ですけど。そんなことを当時思った。今思うと、まだこの婚姻生活が継続しているのは奇跡に等しい。
その後の結婚式場でも、産婦人科でも、子どもを保育園に入れる際の市役所でも、ハウスメーカーでも、はたから見ていて妻は、誰からも特別扱いされているなあと感心してきた。「あっ、こいつ、厄介なやつや」とアラートを鳴らさせる素質があるのかもしれない。


ということで、皆さんが良い店員さんに会えた経験があるのならば、それはあなたがその店員さんの良い面を引き出せた、立ち振舞いのおかげです。その立ち振舞いが
できるのは、「私はこういう丁重な扱いを受けるにふさわしい人間である」という自己肯定感をナチュラルに持っていることです。そのことはとても素晴らしいことですから、どんどん自分を主張して良い思いをし続けていただけたらと思います。





ビックカメラ×はてなブログ #あの店員さんがすごい 特別お題キャンペーン
家電・パソコン・日用品など何でも揃うインターネット通販サイト「ビックカメラ・ドットコム」
by 家電・パソコン・日用品など何でも揃う「ビックカメラ・ドットコム」