un deux droit

このブログには説明が書かれていません。

10km走と3匹の犬

久方ぶりのランニング。今日はタイムを気にせず、10km完走することだけを目指した。とにかく長時間継続して身体を動かし続けたい衝動に駆られた。

まずは1km6分のゆったりペースで走り始める。走るというより、振動で身体をほぐす感じ。身体が喜んでいる。ふと、ランニングは犬の散歩に似ているなと思った。身体の中、あるいは脳内で犬を飼っていて、定期的に遊んでやらないと宿主の感情が不安定になったり、素行が悪くなったりする。飼い慣らしていたはずの獣性が顕わになってくる。運動してやると獣性が穏やかになり理性的な生物としてご機嫌に過ごすことができる。そんな妄想が働く。

私の身体の中には3匹の犬がいる。運動初めはキャンキャン吠える仔犬がまず駆け寄ってくる。こいつは筋肉を司る犬で、ただかまってやるだけでいい。だいたい3kmくらい走ると疲れてどっかに引っ込む。

2匹目の犬は臓器を司っている大型犬。1匹目が疲れてからこいつが起きるまでの1km弱、急に呼吸が乱れ、足が重くなる局面がある。犬の力を借りられず、生身の私の筋力と肺活量だけで身体を前に進めなければならない、苦しい時間帯。2匹目の犬が目を覚ますと、とたんに呼吸が安定し、身体が軽くなる。息遣いや呼吸のリズムが変わるのを感じる。本当に別の犬種に変身したような気分。身体が火照ってきて、老廃物や、普段摂り過ぎている糖分、油分、塩分が血管から滲み出て来る感覚を味わう。これがだいたい5〜7km。2匹めが満足して去ってから、3匹目が起きるまでまた足が重い時間帯。

3匹目の犬は記憶や精神を司る老犬。また呼吸のリズムが変わる。こいつは体力がないので、起きたとてそんなに足取りは軽くならない。こいつの時間帯では、胸に抱えたままのわだかまり、憤り、不安、心配、ためらい、戸惑い、悩みをゆっくりと分解してゆく。こんがらがったり目詰りしていた脳の神経回路に溜まったゴミが洗い流されてゆく。このフェーズを越えたあとは、シンプルな思考が手早くできるようになっている。

脳内清掃が終わり、老犬が去ると、いよいよ足が動かなくなる。最後の500mを命からがら走り抜ける。棒になった足をそそくさとストレッチしたあと、冷水のシャワーを頭に掛け流す。この瞬間が至福の時。気持ち良すぎて危うく失神しそうなくらい。脳内の犬を想像して走るのが楽しかった。これでまた明日も頑張れる。