2021年のM-1は、錦鯉が制した。
リアルタイムでは見れなかったので、意外な結果だなと思ったのだが、録画を見て合点。
1本目に渡辺さんの鬼気迫る迫真のツッコミが炸裂していた。長谷川さんのボケは、全力でツッコむのがかえって恥ずかしくなるくらいくだらなかった。そこに一切の手を抜かず100%の力でパチーン、パチーンと長谷川さんの後頭部に快音を響かせる様は、ボケを制しているようでいてむしろ後押しするという斬新なツッコミだった。口では「いいかげんにしろ」と言い、手では「もっと行け!」と激励する。これは新しいと感じた。
2本目は1本目よりもリラックスしている様子で存分に錦鯉ワールドを展開。「猿を捕まえる」というあまりにしょうもない設定に全身全霊を込める二人。「ご老人はこうやっていたわるのだ」という前フリを活かし、長谷川さんを静かに横たわらせて完成してゆくオチは芸術的ですらあった。
ダメ押しに、横たわったまま長谷川さんが「ライフ!イズ!ビューティフル!」と叫ぶ。正直、話の展開と何一つ噛み合ってないので、ネタの内容的には全く意味をもたないワードだった。しかしこれは、御年50の長谷川さんが晴れの舞台でこれまでの芸歴の集大成を余すところなく出し切ったという事実に対する、歓喜の告白だったのだと思う。これは漫才のようでいて、実は二人の男たちの生き様を収録したドキュメンタリーなのだ、という宣言。ここに来てメタ・メッセージを持ってくるとは。この絶叫は見るものの心を震わせ、感動を生んだ。(何気に渡辺さんが、寝そべる長谷川さんの頭を中腰ではたくラストのツッコミも斬新だった。)
面白さだけでM-1を優勝するには初登場しかチャンスがなくて、2回目以降の出場者には、感動の領域までネタを昇華することを求められていると思う。面白いこと自体は初登場の段階で認識されているからだ。そういう意味ではオズワルドもインディアンスも技術は素晴らしく、抜群に面白いが、「面白い」止まりだった。オズワルドの優勝をいつか見てみたいが、タイミングには今回で王座を仕留めきったほうが良かった。期待値は決勝に行く回数が増えるごとに指数関数的に高まってしまう。その期待値の高まりに成長や変化が追いつかない。和牛も見取り図もニューヨークも、決勝まで行き過ぎたのだ。オズワルドの来年の挑戦は困難な道のりのように思う。そのことが残念でならない。