un deux droit

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M-1でマンガ描いたらこんなシナリオになるよな

2023年のM-1グランプリは、個人的に推していた令和ロマンが出ていたので、とても楽しみにしていた。子どもを寝かしつけてからでないとじっくり見る環境を調えられなかったので、ネットニュースで結果をうっかり見ないように用心しながら、22時から録画を再生する。

敗者復活戦の突破はまさかのシシガシラ。ハゲネタしかしないのだが、敗者復活のネタは、まだこんなハゲのイジり方あるのかと感心させられた。個人的な好みではロングコートダディが一番キレイで、ネタの破壊力はトム・ブラウンだったけど、どちらも勝ち上がれなかった。トム・ブラウンはほんとすごいと思う。強制的に笑わせる拷問を受けているような感覚だった。

いよいよ本戦。推しの令和ロマンがいきなりトップ。一瞬、優勝の目が潰えたかと頭をよぎったが、いや彼らならこのビハインドすら笑いに利用するかもしれない、そんな期待を持って見守った。

案の定、彼らは憎たらしいほど華麗に、会場の空気を掴んだ。やりやがった。高揚が止まらない。「今日は私たちが主役です」と、場の支配者であることをぬけぬけと宣言したような出来の漫才だった。これはよほどのことがない限り、最終決戦残るだろうなという手応えを感じた。あとは真空ジェシカか、モグライダーあたりじゃないかと思った。

令和ロマンの面白さというか魅力なのは、その漫才が「ナマモノ」であるということだ。その日その時間に一番美味しい状態で提供される。だから、YouTubeで配信されている第1ラウンドの彼らのネタ「だけ」を切り取って観ると、もちろん面白いんだけど、最終決戦に行くほどではないと感じられるんじゃないだろうかと思う。実際私も見返してみて、あれ?こんなんだったかなと不思議な気持ちになる。彼らのネタはあの開始早々の緊張感からの流れの中でこそ輝くもので、ネタ単体でぶつ切りに味わうものではない。あくまでフルコース料理の中の一品なのだ。ミルクボーイの「コーンフレーク」ネタは、いつどんなときに見ても面白く、それ単体で、前後の文脈から独立したコンテンツとして完成していた。それとは対極にあるのが令和ロマンの漫才。珍しいタイプの漫才師だと思う。狐に化かされたというか、たしかに面白かったはずなんだけど、振り返ると手元に何も残らないという不思議な感覚。マジシャン、あるいは詐欺師的な才能なのかもしれない。

その後、令和ロマンが作った空気を一変させる漫才師はなかなかでてこない。3番目に出たさや香が点数的には令和ロマンの上を行ったが、個人的には令和ロマンを超えてなかったように感じた。もちろんうまいし面白いんだけど、もはや彼らがもうM-1に合ってないと思った。高校卒業したのに、未だにちょこちょこ顔出して先輩風ふかしにくるOBみたい。いやもうあなた社会人でしょ?精神年齢大人になれ、みたいな感覚。たぶんM-1決勝でネタ見せられるのは最大3回(過去2回第1ラウンド敗退で、3度目の挑戦で最終決戦に残ったパターンのみ4回目オッケー)という上限を設けたほうがいいと思う。さや香は去年の最終決戦で3回目を使い果たした。資格がないというより、すでに卒業した人が再入学できませんよという形になるだろう。

令和ロマンの次に、会場を我が物としたのはヤーレンズだった。盲点みたいな人の油断するポイントにことごとく破壊力の高いボケを差し込んでくる。凄腕の鍼灸師が鍼治療をするかのごとく、あ、ちょ、まって、あぁ、と喘ぐように笑ってしまう。イタ気持ちいい。痛快とはまさにこのこと、といったネタだった。ヤーレンズに骨抜きにされてしまったあとの空気では、真空ジェシカもモグライダーも刃が立たなかった。モグライダーはともしげが予定外の素っ頓狂な天然ボケをかませられたら一撃必殺のパワーがあるし、それを芝の瞬発力あるツッコミでコーティングすると他では味わえない笑いになるのだが、今回は残念ながら暴発せず。作為なく間違えないと最大の笑いが起きない、ネタの台本通りに出来てしまうと面白さの最大値に到達しないという因果を背負ったコンビ。案の定というべきか、点数発表のあとにともしげ真骨頂と言える言い間違いが発動し、「それをネタ中にやれよ」と日本中が総ツッコミするというほのぼのした空気で第1ラウンド終了。令和ロマンがトップバッターというビハインドの中にあって、3位通過という快挙を果たした。そしてヤーレンズが2位通過。ここのエモさについては是非ネットで検索してほしい。

令和ロマンは最終決戦のネタもまたあの流れでとってもちょうどいい、今それ見たかったやつ、というタイプのネタを放り込んできた。たいしたボケでもないところでさざめくような笑いが起きた。もう何言っても面白い確変に突入していた。最後の吉本社員のくだりは本当に最高だったんだけど、このネタだけをYouTubeで見直すとなんであんなに笑っちゃったんだろうという感じ。何回見ても面白いわけではないけれど、あの瞬間の一回に限り腹が捩れて涙するくらい面白いボケだったんだ。

最終結果発表の投票結果も、これ以上ないってくらい興奮する展開。ヤーレンズと令和ロマンに交互に入る得票。そして3対3の同点になったところで松ちゃんの投票に全てが委ねられるという神展開。この部分はもうマンガでしかありえない世界だった。最後は令和ロマンがまくって見事優勝。痺れました。

これから令和ロマンがいろんな番組で見られるがとても楽しみです。おめでとうございました。