un deux droit

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いつだって手元には離婚届を

連休最終日、私の我慢にも限界が来て子どもを置いて家を飛び出した。妻は私の背に向かって「都合が悪くなったらそうやって逃げるのか」と吐き捨てたが、構わず鍵をして対話を拒絶した。

怒りに任せて目的地も定めずに歩き、ここまでの顛末を振り返って自分はもうこれ以上我慢する必要がないのでは、と結論を出した。生活がどうなるのかなんてやってみないとわからないが、もう関係を解消したほうがいい。これ以上自分の人生を台無しにするわけには行かない。そんな思いを巡らせているうちに、足が自然と市役所の方に向いていた。

「離婚届の用紙をください」

まさか自分がこんな事を口にする日が来るとは。恥ずかしいやら情けないやらで、市役所の入口でしばらく躊躇していたが、かといって引き下がるのも地獄しかないと思い、意を決して窓口に向かい、努めて冷静に用紙の支給を依頼した。いざ口にしてしまうと自分でも思いの外堂々としていられて、なにか文句でもありますか、と平然とした心持ちだった。窓口の職員のほうがどちらかというと落ち着きを失い、ソワソワとしながら小声で書き方の説明をしてくれた。どうも、とお礼をいい、飄々と窓口を後にしてみて、なぜか白紙の用紙をもらっただけでかなり心が晴れ晴れとしたものになった。離婚してもお前には幸せな暮らしなど望めない、と妻からさんざん脅されてきた呪いが一気に解けたような気がした。俺が何を幸せと思うかは俺が決める。そういう割り切りがようやくできたのだ。

心のもやもやが晴れると、急に腹が減ってきた。朝からろくなものを食べていない。今後の妻との戦いに備えて気合を入れるために、ちょっと奮発してスープカレーを食べに行くことにした。夢中になって頬張っていると妻から電話が。しばらく無視していると、LINEで「話し合う気もないのか、じゃあこれでもう終わりだ」と脅してくる。妻はそうやって圧をかければ私がうろたえると思ったのだろう。しかしもうこちらは離婚届を入手するところまでやってきている。決裂上等だよ。そういう心持ちで「話し合いも何もこちらが言いたいことは全部言った。それを受けてどう考えるのかを示すのはあなたの仕事だ」と突き返した。その後、しばらくLINEでラリーを続けたが、私が普段よりも相当に冷たい物言いで妻の主張がいかにおかしいかを詰めていった。そして、もうこのやり取りと、関係を続けたくないとはっきり伝えた。

すると、妻からの書き込みはしばらく途絶えた。これで完全に決裂かな、と思っていたら、妻から返事が来た。そこには、妻がこれまでさんざんこだわってきた、口論の中身についての正当性の主張は書かれていなかった。代わりに、そもそもなぜ口論をしたくなってしまうのか、その点についての分析と改善策が提示された。

私としては口論をしたくなるようなストレス環境自体は改善すべきだということに異論はなく、そのためにできる改善策についても納得の行くものだったし、私にも大いに利点のある内容だったので、ここいらで手打ちにしようと思った。自分なりに反省すべきと思ったことは端的に伝え、詫びを入れて、逃走劇は終了を迎えた。所要時間にして8時間ほどの短い逃避行だった。

妻も妻で言いたいことは存分に言い捨てることができたようで、今のところ関係は安定している。

たとえまた関係がこじれたとて、私にはすでに入手した離婚届を引き出しに保管しておいてあり、次に納得のいかない因縁をつけられたら、即座に叩きつけることができる状態になっている。この事実は、私自身の心の余裕と安寧につながるなと実感している。