un deux droit

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精神的不倫

昔交際していた女性から、パートナーと離婚したことを告げられた。

交際は大学の時なので、もうかれこれ15年以上前の付き合いだが、お互い違うパートナーと結婚したあとも、お互い出張などで近くに寄った際はメシに誘う関係が続いていた。

昨日はもともと私から声をかけていたものの、開始が遅くなりそうだったのでキャンセルした予定だった。しかし先週になって、「あの予定の日、遅くなってもいいから会おうよ」と逆にお誘いがあったのだ。なんとか会おうと粘ってくるのは珍しいことだったので、そういうことなら、と22時から店を取った。

久々に会った彼女は指輪をしていなかった。違和感から目を背け、いつも通り互いの近況の共有をし、思い出話に花を咲かせた。

彼女は美しかったが、才能にも富み、自らも特別な存在でなければならないと強迫観念に駆られていた。私は特別であらねばと自らを苛む彼女に、「あなたはありのままの状態ですでに特別で、十分に魅力的だ」と執拗に言い聞かせていた。当時の私は猿から人間になりきれておらず、女性を外見の魅力だけで価値判断していただけで、彼女の内面には無頓着だった。そのことが彼女にとってはかえって新鮮で、私が盛りのついた獣として彼女を求め続けることが彼女にとっては微笑ましく、また救いにもなっていたらしい。

そんな話をしていると、「実は」と離婚の話を切り出された。詳細は本人の名誉のために割愛するが、彼女自身の落ち度について悩みを抱えていた。その「落ち度」は別れたパートナーにも、家族にも友人にも打ち明けていなかったが、「私」にだけ教えてくれた。彼女のこれまでの人生において、彼女の未熟なところ、醜いところに幻滅せず、それも含めて「人間味」として愛したのは唯一私だけだった。たしかに私は、そのカミングアウトを聞いたあとも彼女のことを微塵も嫌なやつだと思わなかった。

私も私で、未熟さ、醜さも含めて等身大の自分の姿をなんのためらいもなく見せられるのは未だ彼女だけだということに気がついた。普段の生活で封じ込めていた様々な思いや苦しみを、彼女に対してはなんの抵抗もなく打ち明けられた。

互いにとって唯一無二と思える存在の人とパートナーになれないことはよくある悲劇で、当時若かった私達はそのことがまだわからなかったね、という話をした。社会生活はそれだけでは営めないし、家庭を持ったら主に経済的な理由で破綻したと思う。資産運用に対する計画性がまるでなくあればあるだけ使い込んでしまう二人だったから。

今のところ彼女はお一人様の暮らしを満喫しているし、私も私で今の家庭を壊す気はない。妻は色々問題があるし、何一つ心は通じ合っていないが、家庭を運営するビジネスパートナーとしては絶大な信頼を寄せている。昨日はただお互いがお互いに取って唯一無二の存在であるという認識が一致できただけで満足した。そういう人間が自分の人生に存在するということだけで十分に幸せなことと思う。