un deux droit

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でかすぎて解からねェ

学生時代、札幌のテレビ局のバイトを数回やったことがある。
業務内容としては、報道番組の撮影クルーに同行して、撮影中に一般人がテレビカメラのコードを足に引っ掛けたりしないように目張りしたり、カメラマンの後ろにくっついて、カメラマンの動きに合わせてコードを出したり巻き取ったりする作業だ。カメラマンがコードに足を引っ掛けたり、逆に長さが足りなくて後ろにぐいーんと引っ張られて転倒(これが一番怒られる)しないようにしなければならない。広い視野とエレガントなコードさばきが求められる、神経の使う仕事だった。そんな大事な仕事をバイトに任せるのは、録画して編集する素材の撮影だからであって、放送事故を起こせない生中継はおそらく正社員だけで回していたと思う。

数多ある現場の中で、私のお気に入りはブロ野球の撮影だった。札幌ドーム(当時)で日ハムの試合があると、バイトの募集がある。ドームの急な階段を重たい撮影機材を持って上り下りするのは大変だったが、いざ試合が始まってしまえばカメラは固定された位置にあるため、試合終了後の撤収までやることはない。簡単に言うとバイト代をもらって野球観戦ができるという虫のいい仕事だった。ライブの警備員だとステージを見ることが許されないが、この仕事は堂々と観戦し放題。そんなに熱心な野球ファンではなかったけれど、プロのスポーツは生で観戦すればなんだって面白いのだ。そんな気まぐれでやってくる非日常を、年に数回楽しんでいた。

ある時、いつもと違うイベントのバイト募集があった。日ハムのファン感謝祭だ。いつものスタンドとは違い、グラウンドに降りて、選手を間近で撮影することになる。私は芸能人にでも会うミーハーな気分でバイトを申し込んだ。

チアのダンスパフォーマンス、親子参加型のゲーム、ひちょりと小谷野のトークショーなどがあったあと、選手たちがステージからグラウンドに降りてきてファンと触れ合うタイミングがあった。稲葉だ、小笠原だ、ダルビッシュだ、と知った選手が続々と登場して、内心小躍りしていると、奥から颯爽と新庄が現れた。遠巻きに見ていたときは細身で顔ちっちぇーな、くらいにしか思わなかったのだが、新庄がファンに手を振りながら徐々に近づいてくる。ん?目の錯覚か?思ったよりでかいな、と感じた。そして、手の届く範囲の至近距離に近づいたとき、違和感が確信に変わった。

©キングダム7巻より転載

マジでこんな感じ。自分が片膝ついてスタンバっていたので、新庄を見上げる形になっていたのもあるけれど、それにしてもでけぇ。私も身長は180㎝あるので、並べばほぼ同じ高さだと思うが、そういう問題じゃなかった。ライオンだって身長だけで言えばそんなに変わらない。何か身の危険を感じる大きさだった。オーラと一言で言うのは簡単だが、なんか違う。どちらかというと重力。極めて高い密度の物体って感じだった。生物としての種類が違う。選ばれし者の肉体とはこういうものかと目を瞠った。生の新庄の肉体はとても凶悪で、美しかった。わずかな日銭を稼ぐことにあくせくしている己のスケールの小ささを感じずにはいられなかった。私が人生で見た「美術品」の中で、あれほど心打たれたものは今のところない。そんなプライスレスなバイト経験の話。

すみません、ただこのコマ使いたかっただけです。久しぶりにキングダム読み返したら急にフラッシュバックしました。


今週のお題「やったことがあるアルバイト」