un deux droit

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あなたがしてくれなくても 最終話感想

好きなドラマが一つ終わってしまった。Twitter上では「時間返せ」の大合唱だが、私としては満足する結末だった。

Twitter上では、誠とみちが結ばれるべきだ、という意見が多いようだが、なぜその結末を望む人が多いのか、ちょっと理解に苦しむ。
誠とみちは、パートナーとのセックスレスという共通の悩みを持つ間柄ではあった。
しかし誠のほうは、まず、みちを好きになる、という心の動きが先にあった。そしてアプローチをする中で、たまたま共通の悩みをみちの中に発見した。
一方、みちは、誠に会社の頼れる先輩として尊敬や憧れの気持ちはあったかもしれないが、恋愛対象としては誠のことを見ていなかった。違う世界の王子様、身分違いと線を引いていた。そうしたら思いがけず、共通の悩みを打ち明けられ、身分差をわきまえつつも、秘密の戦友として誠のことを精神的に頼るようになった。

つねに、みちの心の中には陽一がいた。結局、心の底から求める相手は陽一しかいなかったのだ。

だから陽一と離婚した後、誠のアプローチを拒んだ。みちも誠も不倫関係にあったと自覚しているものの、結局一度も身体の関係にはならなかった。誠は愛する人と身体的に結ばれることを求めた。心から愛せる人であればみち以外にも可能性はあった。しかし、みちは陽一と身体的に結ばれることに固執していた。どの男でも代替不可であった。みちが誠を求めているように自ら錯覚していたのはただの逃避行動で、誠自身を求めているからではなかった。だから2度目の水族館で誠の申し出を断ったのだ。

誠は心がみちに囚われてしまい、楓との生活を続けられなくなった。みちは心が陽一に囚われたまま、陽一の中にみちがいない(というか陽一の中には陽一しかいない。結衣花に囚われることもなかった。)ことを直視し、傷つき続ける生活を続けられなくなった。この点の繊細な描き分けが秀逸だったと思う。


離婚して数か月後、みちは不意に陽一と遭遇したとき、自分が全く陽一のことを忘れられていないことを自覚し、ここをかき乱される。でもまた陽一を求めても結局陽一の心の中にみちはいないと自らを諭し、心を閉ざす。誠はその姿を見て、みちの心が手に入らないことを深く理解する。楓はその誠の姿を見て、私は何のために身を引いたのかと憤る。ここまで全員バッドエンド。

ただ、離婚後1年の冷却期間は悪いことばかりではなかった。まず、みちはセックス、子づくりへの執着という憑き物が取れた。楓も編集長の椅子への執着という憑き物が取れた。ふたりとも正気を取り戻して、自然体の、それこそ陽一が愛したみち、誠が愛した楓の姿に戻ったように見えた。対して陽一と誠は脱皮というか、今までの二人に無かった魅力が立ち現れ始める。陽一は雇われ店主の身から脱却しようと、独立を画策する。誠はみちを手に入れようと泥臭くもがく。陽一はみちへの依存心という重荷、誠は従順で一途で無菌室のような献身的姿勢という重荷が取れた。


本作では具体的な結論は描かれていない。陽一とみちはヨリを戻したように見えるけれど、再婚はしていないかもしれない。誠と楓は袂を分かったままのように見えるけれど、二人の心は結婚していた時より近づいたかもしれない。夫婦とか婚姻関係とかいう枠組み、そして友人や恋人というラベルから解き放たれた、それぞれの二人だけが理解できる特別な関係になったように思う。少なくとも本作のテーマであるセックスレスはおそらく解消した。二組の元夫婦は、示し合わせることもなく出会い頭に身体を求めるような、自然体の距離になった。その行為や関係が社会的に許容されるかはまた別の話として。