un deux droit

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やりたいことをやるだけさ(パクリ)

5年ぶりにテニスのラケットを押し入れから引っ張り出して来て、近所のテニスコートへ壁打ちに行ってきた。ガットが固くなってたり、シューズのゴムが劣化してたりするかなと思いきや、特に問題はなかった。体の劣化も懸念したが、特に衰えもなく、むしろ制御したくても体が勝手に動いてしまう。サーブのキレも、ストロークの精度も記憶通り。壁をしばく球の音がコート中に響き、周囲のプレーヤーが振り返るのが少し心地よい。持久力は落ちているだろうけど、1時間くらいなら全力でできる。この発見は大いなる収穫だった。

第二子の妊娠が発覚してから、テニスは遠のいていた。当時入っていたサークルは土日しかなく、休日に自分だけ余暇を過ごすのは妻が気分を害するので、無用なトラブルを避けているうちにテニス道具はお蔵入りになった。そのうちに下の子が生まれ、乳幼児の育児にてんてこまいになり、テニスどころではない日々が続いた。

下の子がある程度大きくなったら、土日がさらに忙しくなった。あっちの公園に行きたい、こっちの遊び場に行きたいと、土日のほうが予定ギッシリで、自分個人のレジャーに土日を使う贅沢は許されなかった。平日夜は夜でお迎え→夕食作り→皿洗い→風呂→寝かしつけとテニスが入り込む余地はない。結局テニスができるのは、有給取得しての平日の日中しかないのだが、その時間帯にプレーできる社会人に出会うことが困難。ということでテニスは一旦完全に諦め、ランニングをすることで、いつかどこかで条件が整って、テニスをプレーできる日が来たときのために体力を維持する作戦に切り替えたのだった。

テニスは相手がいて初めて成り立つもの。私はなんでこの要件にこだわっていたのだろう。自分の欲求を突き詰めて考えたら、ラケットを握って球をしばきたいだけだった。それなら相手は必ずしもいらない。むしろ余計な存在ですらある。相手がいれば、相手が取りやすい球を打ってやる必要もあるし、ゲームをすれば勝利が目的になる。でも今の私に他人を気遣う余裕はないし、勝利もいらない。入ろうが入るまいが関係なく、ただ強い球を打てればそれでいいのだ。ランニングなんて遠回りせず、一直線にでかい壁と対峙すればよかった。私の欲したものはいつでも手に入るところにあった。ただ、テニスとはかくたるものだ、という思い込みがその獲得を妨害した。壁打ちコートは1時間たったの140円。競争率も劇的に低い。たった140円で自分が最大限に幸福を感じられる術がこの世に存在した。

テニスから友人と勝利の要素を除いても自分の望むものは残っていた。むしろその要素を除外したことで遥かに入手しやすく格安にもなった。友人と勝利をテニスの要素に含めていた時は、家族がその入手を疎開する最大の障壁だった。家族のせいでテニスができない。その鬱屈としたフラストレーションは、家族の欲求を叶えてやることに対する憤りになっていた。自分は君たちのために自分の幸福を遠慮しているというのに、なぜ君たちの幸福を叶えるためにさらに犠牲を払わねばならぬのか、と。しかし自分が自分の欲求の捉え方を変えた今、家族は自分の幸福の阻害要因にならず、憤る感情も霧消した。

やりたいことをやる。シンプルにこれだけが人生の幸福で、これさえ叶えば人生はとても生きやすくなる。しかしこの『やりたいこと』というのが意外と厄介で、何が本当にやりたいことなのか、その要素をできるだけ絞り込まないと、金、人間関係、時間、環境などいろんな阻害要因が次から次へと立ち現れてくる。その要因を一つ一つ片付けていくうちに、やがてその『やりたいこと』自体への情熱が失われていくのだ。だから『やりたいこと』というのは、いつでもどこでもどんなときにでも実現できるように、できるだけコンパクトにする工夫が大事なのだ。

更に言うと、自分はやりたいことをやれているだろうか、と自問することを習慣化しないと、意外とやりたいことというのは後回しになってしまう。それくらい現代人は『やるべきこと』に囲まれて、やるべきことの山で窒息しないよう、やるべきことをやっつけることに日々を費やしている。

このエントリのタイトルでもある『やりたいことをやるだけさ』という文句、実はある方のブログタイトルなのだが、この文字列がはてなブログを立ち上げると定期的に視界に入ってくる。普段は意識せず眺めていても、延々と長期間視界に入れ続けた結果、その蓄積が今日ついに「やりたいことを、やろう」という衝動として形になった。運営の方にそういう意図はないと思うけれど、勝手に感謝の意を込めてこのタイトルとした。家訓や社訓を額縁に入れて、見えるところに飾って置くことの効果は馬鹿にできないなと思う次第であります。

最後に、id:naruzawanさんのブログを紹介。やりたいことをやる御守りにどうぞ。
blog.naruzawan.net