un deux droit

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余財管理の余罪

昨日、営業の案件をシステムに登録していた際、ふと他の営業の現状はどんなものかなと気になり、個人別の今期売上予測を見てみた。すると、軒並み予算比150%〜170%の案件が登録されている。この見かけの数字を鵜呑みにすれば今期末のボーナス原資はとんでもないことになるし、現状目標達成見込みが95%の私は、相対評価でめちゃくちゃ悪い査定を喰らう羽目になる。

いやいやそんな訳なかろう、と景気の良い営業担当者の細目を見てみると、受注見込みC(提案しただけ)、見積もりなしで金額登録しただけ、みたいなスカスカのデータのオンパレードだ。この水増し案件を厳しく精査すれば2〜3割しか残らないはずだ。それを加味すれば大体の営業の期末時点での着地は予算比90%〜110%に収まるはず。例年通り。しかし目標額自体が前年比120%というトンデモ設定だから、それでも十分な成果と言えるだろう。少なくとも経営目線では。

なんでこんな架空データが跳梁跋扈しているのか。それは今の営業部長が掲げた「目標予算額の2倍の余財管理」という方針にある。とにかくなんでもいいからシステムに登録さえすれば良い。後で失注になっても全然構わない。むしろ失注額の多い営業は表彰すらする。さしてその失注データの精度は問わない(自己申告)。実際に上半期でシステムに登録された失注額の最も大きかった営業にはAmazonギフト券1万円が送られていた。

ではなぜそんな施策を強行するのか。それが昨日ようやくわかった。まさに私が味わった「焦り」を営業一人一人に植え付けること。ただその一点を叶えるためだけに、一見馬鹿馬鹿しく見える施策を推し進めてきたのだ。営業本人の目線では、自分の計上した案件の大半がブラフなことを理解している。しかし他人のデータがブラフであるかどうかを確認する術はない。「本当のところどうなんすか」と聞いて回ったところで「あんなの盛ってるだけだよ」と返されるのがオチだ。問われた側は本当のことを言っているだけなのだが、尋ねた側の疑念が払拭されることはない。結局期末を迎えるまでは事実はわからず、なんとなく自分のコンフォートゾーン以上に営業努力をしてしまう。このストレッチ部分が、営業の統括責任者として部下から搾り上げたくてたまらない労働なのだ。中堅以上になると経験則で騙されないけど、若手はもろに影響を受けて、目に見えて残業が増えている。

人の能力なんて五十歩百歩だ。営業もそう。大概はやった分だけ返ってくる。だからあれこれ言い訳をつけては2割くらいの体力を温存して日々を過ごす営業からその2割を搾り取りきればかなりの成果として返ってきてしまう。ほくそ笑む営業部長の顔が頭に浮かぶ。結局のところ労働の果実を貪るのは部長なのだ。

この2割の余力は、本当は手を出してはいけない禁断の果実だと思う。この余力は家族や友人と余暇を楽しんだり、新たなことを学んだり体験したりと、働く以外の人生を充実させるために使うべきだ。それ自体がかけがえのない価値だし、そこでついでに広がった知見が新たな仕事のアイディアに活きたりもする。

この余力を奪われた営業達が今どうなっているかというと、まず、他者への思いやりや関心が減る。その結果社内の人間関係がギスギスしたり、仕事が粗くなってクレームが頻発している。業務を改善する知恵を絞る余裕がないため非効率なやり方で数多くタスクをこなし、無駄に疲弊している。そもそも営業がとってきた仕事をこなすだけの制作人員の頭数が揃っていないので納品に遅延が発生している。業務知識を学ぶ余裕がないため、付加価値の高い仕事を取りこぼしている。そうやって利益率の低いジャンク案件の山に埋もれてメンタルを病み、休職者が現れている。
転職先をゆっくり探す暇もない。無間地獄。

今年度の売上は過去最高益を見越していて経営陣はホクホク顔をしている。しかしその頃には多数の屍がゴロゴロしているはずだ。営業は農業みたいなもので、拙速に収量を増やそうとすれば土が痩せて次の作物が育ちにくくなる。今当社もそのフェーズに入り、顧客の離反が水面下で起きている。営業部長は土が痩せた頃にはもう次のポジションに転がり込んで責任回避を目論んでいるはずだ。悪魔の所業。しかしそのカラクリを見抜けない、あるいは見抜いた上で見てみぬふりをしている経営陣がポンコツなのだよな。

私ができることは自分の畑を守ることだけ。つまり施策を無視し、生活の余裕を確保して、読書して知見を広めたり、こうやってブログを書いて自分の思考をまとめる習慣を維持する。すると短時間で低負荷で高価格の仕事を捌けるようになりますます余暇が増える。そもそも人生のほとんどを仕事に捧げたとて、この会社でもらえる対価は少ない。いかに働かずに同じ給料をいただくか、ということに心血を注いだ方がはるかにコスパが良い。そういう営業が1人でもいるということで誰か他の営業の緊張の抜き所にならばと思う。(粗々利ではちゃっかり目標達成するんだけどね)