un deux droit

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くたばれSPIN

新入社員時代、営業トークの効果的な質問技法としてSPINなるものを叩き込まれた。SPINとはSituation Questions(状況質問)Problem Questions(問題質問)Implication Questions(示唆質問)Need-Payoff Questions(解決質問)の頭文字を取ったもので、いきなり課題を聞いたり、解決策を提示するのではなく、近況を伺い、課題のありかをやんわりと探り、それを放置するとどうなるかを想像させてから、解決手法の提示を行う、というステップを踏むことで成約の確率が高まる、というやつだ。正しくはよく知らない。所詮どこぞのコンサルがやってることの孫ひきだ。そもそも中小零細企業の教育担当に使いこなせる代物ではないのだ。
私はこの型にはまった問答がとても苦手だった。教わり方が悪かったのかもしれないが、型に沿おうとするあまり肝心の会話のラリーがギクシャクしてしまうのだ。いつまでものらりくらりと課題をはぐらかされたり、示唆をしたところで前のめりになってこず、痺れを切らして解決策を提示しては失注、ということを繰り返していた。純粋な私は、営業成績が上がらないのはSPINが上手に使いこなせないせいだと思い悩んでいた。

30も半ばを過ぎて、それなりに社会のことを理解してきた私が今思うのは、そもそも新卒の若造が小賢しく問題解決差し上げましょうなんて態度がそもそも無礼だったし、お客さんもせいぜい中間管理職くらいのもんで、問題意識も思考力も大したことはない。一流コンサルタントと経営者との会話で繰り広げられるであろう質問技法を直輸入したところでハマるはずがない。しまむらでバーバリーの営業スタイルを実践しているようなものだ。しまむらはしまむらなりの売り方がある。そんなことにも気づかないくらい私は世間知らずだったし、会社も頭が悪かった。

最近の私の営業スタイルはこうだ。相手の計画を聞く→①計画がある場合はすぐ商品の提示②計画がない場合は他の顧客の頻出事例の提示→どのパターンか選択させる→受注。初対面の顧客の場合は先に会社のコンセプトを伝え、解決したい課題、解決が得意な課題を先にネタバレして、そこが合わないなら尻尾巻いて帰ります、とやっている。不得手なものに無理やり挑戦しても利益が得られないし相手の満足感も高まらない。双方のために早期撤退を図る。いずれのケースもほぼ質問なし。強いて言うならば「この中にあなたの欲しいサービスはありますか」程度のものだ。言うなればジャパネットスタイル。あんたに必要な掃除機はこれ!一択!という乱暴な手法だ。しかしこれが案外喜ばれる。人は決断することを負担に感じている。ある程度信頼のおける人物が「これしかない」と太鼓判を押せば喜んで購入するのだ。そういう庶民的なやり方が通用しない、猜疑心の強い百戦錬磨のエリートが出てきた時に初めてSPINが生きてくる。知らんけど。

昨日の商談では、同行していた2年目の後輩が、私の自由奔放な進行に目を見張っていた。すぐ本題に入る。顧客の独り言を適当に引き出しつつ、顧客の打ち明ける課題とは全く違う内容の提案をぶつける。そして「それだよ、それにしよう、あんどうくん!」と受注する。そしてそこからの雑談。その雑談から次の商談のネタを引っ張る。起承転結もメロもサビもあったものじゃない、ジェットコースターのような60分間に酔ったらしい。「すごいっすね、クロージング間際だったのに、全部ひっくり返して180度違う展開にして、それであの着地点。勉強になりました」そう嘯く彼に、「いや、こんなフリースタイル参考にしない方がいいよ」と返した。聞くと、営業の基礎教育ではいまだにSPINからやらされるらしく、それと全く異なるやり方でいいんだという実例を目の当たりにして気持ちが軽くなったようだ。自分が納得感あって気持ちよく話せる型でやらないと楽しくないからね、とだけ告げて別れたのだが、彼のこの先について責任を取るつもりはない。でもとりあえずSPINはねーわ、と思うので今より悪くはならないんじゃないかな。