un deux droit

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犯罪は他人事ではない

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「ケーキの切れない非行少年たち」読了。
加害者には自分の意思で克服できないハンディキャップがあって、それ故に犯罪行為に手を染めてしまうケースがいかに多いかということを知ることができる一冊。
犯罪者に対しては被害当事者ではないのにもかかわらず、事件概要を聞いて嫌悪感や憎しみを抱くという反応が一般的だと思うけれど、そういう感情を抱くのは加害者が自分と同じ健常者だという無意識の前提があるのだな、ということに気づかされる。恨みや憎しみと、それに伴う処罰感情だけでは重大犯罪は減らないのだ。
そして、本人・周囲ともにそのハンディキャップ自体に対する認識が適切になされないという厄介な問題にも触れている。態度が悪い、意欲がないとレッテルを張るだけで片付けてしまい、本人の自尊感情をむやみに傷つけ凶悪化を助長してしまうケースなどをみると、犯罪者本人や家庭だけで解消できる問題でないパターンも多い。適切な処置でなければかえって悪化するが、適切な処置さえなされれば犯罪への道を未然に防止できる成功パターンもあるのだということを知ると、犯罪の発生は、教育や社会全体の失敗でもあると感じさせられる。
恐ろしいと思うのは、「非行少年に共通する特徴」の章。見る・聞くという認知機能の弱さ、怒りに支配される感情統制の弱さ、他の捉え方や選択肢が思い浮かばない融通の利かなさ、不適切な自己評価、対人スキルの乏しさ、身体運用能力の不器用さといった項目が列挙されているが、誰しも大なり小なり抱えている特徴だなと思う。妻から見れば私は「非行少年」の性質をほぼ網羅していることになる。私は妻からどうして私の話をちゃんと聞けないのと散々叱り飛ばされているし、こうあるべきだという固定観念も強くて融通が利かず妻との喧嘩が肥大化することがある。感情を普段から無意識に抑制しすぎて突然爆発することもある。過疎地で育ったこともあって人と比較する経験が少なく自己評価がゆがんで切ると指摘されることも、コミュニケーションに難ありと指摘されることもある。交通事故じゃないけれど、自分や家族や友人には無縁と過信せず、軽微な障害や精神疾患について基礎知識を持っておくことは誰にとっても大切な備えだと思う。