un deux droit

このブログには説明が書かれていません。

カラオケだけが友達さ

地元から遠く離れ、家事育児に忙殺される生活を選んだ私は、人並みの家庭を得た代わりに多くの趣味と友人を失った。趣味と友人のメンテナンスは多くの時間と資金を要するが、私にはそのどちらもないからだ。私の可処分時間は平日の日中、勤務時間しかない。その時間帯であれば私は有給を行使していくらでも遊びに行ける(ただし飲酒は運転を伴う子どもの送迎があるため不可)のだが、なぜか誰もそういう時間の使い方をしない。必ず土日か平日の夜間にお誘いがある。そのためその殆どを断っているうちに誘われる事自体がなくなった。なぜそんなにみんな有給使うのに抵抗があるのかは私には預かり知らないことだ。

そんなわけで、私に課せられた条件の中で楽しめるささやかな余暇を探していたら、一人カラオケに落ち着いた。家の近くにカラオケ館があり、平日の日中だと1時間500円足らずで楽しめる。平日の真っ昼間からおっさんが一人で熱唱しているのは気色悪いと思うが、定期的に通ううちに羞恥心はなくなった。

久々に歌い出した当初はまるで声が出なく、すぐ声が嗄れたり、むせたりすることが続き、やっぱり声帯も使わないと錆びつくのだなと落胆していた。しかし通い続けるうちに、徐々に二十代の頃の声の出し方を取り戻してきた。

最近ハマっているのは、宮本浩次がカバーした女性歌手の歌を歌うことだ。赤いスイートピー、異邦人、First Love、喝采あたりが歌っていると予想外に気持ち良い。そこから松任谷由実、中島みゆきなどの曲を、キーを3つほど下げて歌っている。

女性の曲を歌い続けていると、自分の声の出し方に面白い変化が出てきた。女性の曲は男性の曲と違って、力まず声を出したほうが様になる。そうやって肩の力を抜いて歌っていると、裏声と地声の中間みたいな声の出せるポイントを発見したのだ。地声と比べたら声量は劣るが、完全な裏声よりも声量が出る。アカペラでは物足りない音量でも、マイクの力を借りて増幅させれば十分地声くらいの歌声になる。その状態で裏声でないと出せない音域が軽々と出せるようになったのだ。

新たな歌い方に手応えを感じたとき、たまたま見ていた関ジャムで、スターダスト・レビューのボーカルが自身の歌い方のコツについて「力まずに、マイクに声を細く長く入れる」というような発言をしていた。それはまさに私の得た感覚に近いものだった。マイクに余すことなく音を拾わせるように、声を詰め込む感覚。それと似たような感覚で歌のプロが実践していると知り、この歌い方の方向性はアリだと確信を深めた。

この歌い方を覚えてからは、B'zのLOVE PHANTOMやultra soul、T.M.RevolutionのHOT LIMITあたりの高音が苦しくなくなった。20代の頃は音が出なかったり、後半で息切れしたり、していたのにそれがなくなった。そして歌い終わりも声がかれることがなくなった。昔は高音を出そうと力みすぎていたのだな。

更に嬉しかったのは、スピッツの曲を歌うのが楽しくなったことだ。昔は、草野マサムネの音程はそもそも高くて歌えないし、無理に歌ってもあの裏声のような透き通った感じが出せなかったのだ。ところがこの裏声地声で歌うと、マサムネの声質に近い形で歌えることが発覚した。なるほどあの透明感の正体は、こういう声の出し方なんだなと一人納得した。お陰でロビンソンも空も飛べるはずも、全く苦しくなく歌いきれるようになった。


以上、音域を広げたい男性は女性の歌を歌ってみることがおすすめ、という話でした。