un deux droit

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チンギス紀 十「星芒」

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草原を統一し、いよいよ向かう所敵なしといった様相のチンギス。マップもモンゴル内だけだったのが周辺諸国へぐっと拡がった。チンギスに国を滅ぼされ、浮浪の民となった重要人物が、新たな土地で新たな人との物語を紡ぎ出し始めた。敗れたが生き残った者たちの、その後の生き様のほうがむしろ読み応えのある小説である。
タルグタイの妻であり、勇猛な戦士でもあったラシャーンが、安住の地を得て肥え太っていく描写が唐突に挿入されている。その妻の変化を喜ぶタルグタイ。この変態的な感覚、実は多くの男性の古い遺伝子に刻み込まれているが公言しないことになっている。なので昭和以前生まれの男性が書く小説で発作的に登場するくらいしかお目にかかれない特殊な描写である。そもそも北方謙三なんて女性で読んでいる人などほとんどいないだろうけど、どんな感想を抱くのだろう。信じられない、なのか、実は知ってまっせ、なのかは男女に問題にまたがる永久の謎である。
それにしても、ジャムカの遺児マルガーシがどんどん魅力的な男へと成長している。いずれチンギスと対峙する刻が来るのだろう。父の盟友であり、父を殺した張本人でもあるチンギスにどのような感情で向き合うのか楽しみで仕方がない。