un deux droit

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第一章 エイプリルフール 2

穏便な生活を確保したいというささやかな願いは、寮に足を踏み入れて30分も立たないうちに打ち砕かれた。玄関先でまごついていると、上級生らしき人物に声をかけられ、促されるままホールの二階へと連れていかれた。二階の廊下には、よそ行きの格好をして一様に不安げな表情を浮かべた、大量の新入生とおぼしき一団が列をなしていた。
「先に入寮手続きをしてから部屋決めするからね。」
案内してくれた上級生はそう言って階段を降りていった。
 ホールは吹き抜けになっていて、一階の様子が廊下から窺える。巨大な木製の舞台だけが真ん中に鎮座している。一体何に使うのだろうと訝しく眺めていると、館内放送からハキハキとした声が流れてきた。
「入寮管理委員会です。いまから新入寮生が自己紹介をしますのでよく聞いてください。」
続けて新入生がか細い声で、出身高校や趣味、希望する部屋の雰囲気をボソボソと喋っていた。7、8人の自己紹介が終わると、最初に喋っていたハキハキ声に手番が戻り、
「以上となります。取りたいと思った部屋は共用棟に集まってください。」
と告げた。
 程なくして自己紹介をした新入生がハキハキ声の男の先導でホールへと連れられ、先ほどの舞台に登るよう促されている。すると、全員が登るか登らないかといったうちに、各棟からドヤドヤと男たちがホールに集まってきた。

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