un deux droit

このブログには説明が書かれていません。

九州の味覚乗っ取り力

今週のお題「鍋」

大学時代、佐賀県出身の先輩がモツ鍋を振る舞ってくれたことがあった。北海道では馴染みのない料理に抵抗があったが、一口食べて虜になった。キャベツ、にら、笹がきごぼう。道民の私としてはどれも鍋の具材としてピンと来ない。しかし、不思議なことに、それらの具材はモツから滲み出るコクのあるスープと見事に調和して、むしろこれ以外の組み合わせが考えられないくらい完璧な仕上がりだった。輪切り唐辛子を器に散らして、各々の好みで辛めに仕上げる食べ方も斬新に感じた。カジカ鍋と石狩鍋に慣れ親しんできた私が、初めて「福岡」という土地・文化を意識した瞬間だったかもしれない。

それからまる10年。ひょんな縁で福岡に定住することになった私は、鍋といえばモツ鍋か水炊きしか食べていない日常に疑問を抱かなくなっている。人生の3分の1にも満たない期間しか過ごしていないのに一丁前に九州人の舌を気取っている。ラーメンにはすりごま。うどんには柚子胡椒。そばってなんのことだっけ。昔はしゃぶしゃぶといえばラムしゃぶが鉄板だったのだが、今では豚以外の選択肢を邪道に感じてしまう。

それにしても九州という土地が持つ、味覚を塗り替える力は尋常ではない。もう九州風じゃないとしっくり来ない感覚になってしまった。弊害としては九州外で食べる料理がどれもそんなに美味しいと思えなくなったこと。国内旅行の楽しみが半減だ。一体どうしてくれるっていうんだ。