un deux droit

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戦わずして勝つが最上

子ども達を風呂に入れているとき、リビングにいる妻が「風呂場での子ども達の歌声がうるさい」と釘を刺してきた。生理前日の神経不安定な妻が何かこちらの行動を諌めるような動きをしてくる時はろくなことが起きない。暗澹とした気持ちになりながら、風呂上がり後の立ち振る舞いについて計画を思案した。

まず、①落ち度の詫び。②次に、相手の立場になり、どれほど迷惑だったかに思いを馳せ、③それを放置するとどのような思わぬ災厄に見舞われるかを想起し、④今後の次善策を開陳する。今回の場合だと、①うるさくしてごめんね②あんな大声で歌い出したらびっくりするよね③近所迷惑だし、大声出していいところとダメなところがわからないような育て方をしてはいけないね④車の中など、密閉空間なら全開でもいいけど、普段は声のボリュームを調整するよう声がけするようにするね、といった感じ。あぁ想像しただけでだるい。ここで横着したい心が生まれる。
なぜこんなことまで心を砕いてペコペコしなきゃならんのだ、今日は朝からおにぎりを作り、水族館ではしゃぎ回り抱っこをせがむ子ども達にもみくちゃにされ、帰ってきてからも「あれが食べたい」「これが食べたくない」と好き勝手に言う子ども達の夕飯の世話を一手に引き受け、疲労困憊している中で風呂にも入れ、もういちいち子ども達の言動を律するために心を配る余力などないのだ、と「こちらの立場」に立った言い訳は無数に出てくる。だから風呂上がり後にわざわざこちらから先ほどの件について話題を振り、妻に攻撃の機会を与えるのは癪に触る。このまま何もなかったかのように平然と風呂上がりから寝かしつけまで淡々と済ませたい。
けれどもここで逃げの一手を打つと、もし妻がそこまで気にしていなかったときはラッキーだが、結構ムカついているパターンの時、再度蒸し返してくることもある。バッドケースの場合、私も「こんなに頑張っているのに」と反発したい気持ちが抑えられなくなり破滅を迎える。仮にそこまで気にしていなかったパターンだったとしても、こういうケースをこまめにガス抜きしておかないと、いざもっと大きな衝突をした時に「そういえばあの時も」と溜め込んでいた分の不満をベスト盤としてリリースされる日がいずれくる。ならば今日小さな不快を受け止めておく方が賢明かもしれない。こういう時こそ先手を打って、妻の口から聞きたくない小言を私が先に口に出してしまうのだ。そうすれば「ちゃんとわかってるじゃない」と妻の気持ちが早めに収まるのだと妻自身が言っていたことを信じて見ようじゃないか。
しかして、風呂上がりに呼吸を整え、いざリビングに出陣。話の切り出しをぐずぐずしていると「そう言えばさっきさぁ」と妻が宣戦布告してくるかもしれない。こうなると後手に回って話が長引く。私もそれを受け止める精神的余力がない。扉を開けてすぐさま「さっきはごめんね」と①②③④と脳内で暗唱した台詞をコマンド入力のごとく無感情で吐き出した。
すると妻は「あぁ、そうね、そうしてくれるといいかな」とだけ漏らし、なんとそれだけで話が収束した。不動明王は不動のままだった。これだよ!私の求めていたエンディングは!!私は心の中で感涙した。私は、ヨッシーアイランドのボスで、カメックが魔法をかけて巨大化させる前に卵を当てて一撃で倒せるパックンフラワーのことを思い出していた。2022年の私は一味違うぜ。