un deux droit

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顧客との「離婚」

「そのご要望にお答えすることはできません」

長年付き合ってきた顧客に、そう最後通告をしてきた。

こっちの既製品を使おうとせず、毎回ほぼフルオーダーの注文をつけてくる難解な顧客で、労多くして益少ない仕事だった。

顧客の常套句としては
「この仕事をやることであんたは成長できる」
「開発が成功したら他の会社でも売れて長期的にはお釣りが来る」
というもので、どうにか安い開発費で自組織に完全マッチングするサービスを得ようとおためごかしを使ってくるのだった。


これまで顧客の口車に乗せられて作ってきたサービスは4件、そのうち他の企業でも受注が取れるヒット商品となったのは1件。打率.250。新規開発なんてそんなもんかなとも思うが、特段高い成功率ではない。やるかどうかの判断基準は、損得ではなく、自分がそれをやってみたいかどうかだということだけだった。

今回の依頼は自分が興味のないサービスの開発。ゼロから作るのはだるかったので、既存のサービスを軸にして、顧客の要望に沿ってカスタマイズするという提案にした。ウチでできるとしたらこの仕様。それ以上を望むならばウチでは対応できない。これ以上ウチが譲歩する余地はない。端的にそう伝えた。

先方の回答は、「オタクの提案に私達が合わせることはない。あくまで私達が希望する開発の仕様に沿った物を出してほしい」というものだった。先方も一切の譲歩なし。

「ではこれ以上議論することはないですね。今回はお役に立てずすみません」と帰ろうとすると、
「本当にこれが最終決定なのか」
「一旦持ち帰ってもう少し勉強してくれる余地はないのか」
と食い下がってきた。

なんで自分から突っぱねておいて、こっちが離れようとするとすり寄ってくるのかは意味不明だが、
「持ち帰ろうにも持ち帰る先がありません。私がこれまでもこれからも御社への提案に対するアンカーです。私の限界が弊社の限界です。」
そうはっきりと伝えて、ようやく渋々ながら解放してもらった。


なんか最近こんなことばっかりだ。妻からも無茶な要求を突きつけられ、それでは呑めない、別れると切り出すとようやく譲歩が得られる。今回の顧客も、私の意に沿わないことをできるだけ強いろうとする。それに沿わないと機嫌を損ね、しかし完全に離れようとすると阿ってくる。これまでの私の立ち振舞いが「安い人間」だったのかもしれない。ちょっと揺さぶれば容易に思いのままに振り回せる「ちょろい」やつ。そこにリスペクトはなく、単に都合のいいだけの人間。とりあえずこの顧客とは円満に「離婚」ができた。それにしても自分を守るために「相手の期待に応えない」という姿勢を崩さないでいるのはとても疲れる。