un deux droit

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15年越しの上昇気流

久々に夜更かし。アマプラで「ショーシャンクの空に」を鑑賞。初めて見たのは多分大学3年の頃だから15年くらい前の話か。高校生の時にミスチルの「it’s a wonderful world 」を聴きまくってて、特に「one two three」を受験勉強の励みにしていた。その歌詞に「ショーシャンクの空に」が出てくるんだけど、大学に受かったらいつか映画本編を見ようと心に秘めていた(田舎にはTSUTAYAもGEOもなく、DVDを気軽に鑑賞できる環境が整ったのは札幌に来てから)。ミスチル経由で「ショーシャンクの空に」に手を出した人間は少なくないと思っている。


そんで大学入って最初の2年くらいはのんびり映画を観る心境になる機会がなかなか訪れず、やっとしんみりと1人映画でも観るかという気分になったのは3年の冬。久々にミスチルを流して、「あ、そういえばショーシャンク観てねーや」ということに気づき、近所のGEOまで自転車を走らせた。

内容についての前情報は何も仕入れなかった。私が持ち合わせている情報はパッケージに描かれた雨に打たれて天を仰ぐ男と、「one two three」の歌詞のみ。暗闇で振り回した両手とは何か。それがどう上昇気流を生んだのか。それだけを楽しみにPS2の電源を入れた。

描かれていた場面は刑務所。所内での陰湿なリンチ。主人公が働きかけた所内での環境改革。ある男の仮釈放後の自殺。そして脱獄。パッケージに描かれていたのは見事に脱獄を成功させた男の歓喜の姿だった。小さなハンマーで気の遠くなるような穴掘り作業を看守に気づかれることなくやり遂げた精神力に感銘を受けた記憶がある。あと印象に残っているのは仮釈放されたのにシャバの生活に馴染めず自殺してしまう男と、更生したと何度訴え続けても仮釈放が認められなかったのに、半ばやけっぱちで本心を吐露した途端に仮釈放されたモーガン・フリーマン扮するレッド。自分が長期刑に服役する囚人の実態や、その問題点について刑法のゼミで勉強していた時期だったので、刑罰とは何か、ということを考える上で刺激を受けたのだと思う。
逆に言うと、それ以外の要素は何も覚えていなかった。そもそも主人公のデュフレーンは何で捕まったんだっけ?何で刑務所内で特権的な地位を獲得できたのか?脱獄した後どうなったんだっけ?レッドも結局自殺したんだったっけ?リンチと自殺と脱獄のシーンしか覚えてない。そんなわけでもう一度鑑賞することにしたのだ。

鑑賞してすぐ、根幹となる情報がすっぽり記憶から抜けていることが判明。デュフレーンは優秀なバンカーだった。なんと銀行の副頭取。それが妻と愛人殺しの冤罪を着せられて収監されたのだ。これらのことを何一つ覚えていなかった。それでその才を活かして刑務所の役人たちの節税やら保険やらの世話を焼いてやることで所長に気に入られるという話だったのだ。この辺は当時経済のことは何一つ知らないどうしようもない人間だったから理解を丸ごとスキップしたのだな。社会人になると賢い財テクがたくさんあって、やるやらないの差が大きく、しかもそのどれも煩雑で素人が手を出せないクソ面倒なことであるという実感がある。その肌感覚がないとあの一連のシーンは楽しめない。ど田舎の高校生に毛が生えた程度の人間の頭脳では処理ができなかった。ついでに言うとデュフレーンが所長の裏金づくりに協力しており、それがバレないように架空の人物を捏造して目眩しを施し、脱獄の際は架空の人物の身分証と通帳を丸ごと持ち出して全て引き落とし、同時に所長の不正の証拠をマスコミに送りつけて所長を失脚させ、刑務所を機能不全にすることに成功して脱獄の成功を確かなものにするという鮮やかな手口をやってのけている。脱獄そのものよりも脱獄した翌朝の周到な逃走計画の方が痛快だった。なんでこれも覚えてないのか。
さらについでに言うと、デュフレーンは20年投獄されていたこともよくわかっていなかった。たぶんデュフレーンを演じたティム・ロビンスの見た目が劇中であまり変わらなくて時間の感覚がよくわからなかったのだと思うが、20歳の自分には時間の長さの物差しがそもそもなかったのかもしれない。20年という時間の長さがピンとこなかった。30を優に越した今ならその重みが嫌というほどわかる。デュフレーンが失った地位と時間の重みを考えると、それでもなお自分のできることに集中して内心の豊かさを失わずに宿願を叶えるタフさは驚愕するしかない。結局、最初に見た当時は、本当の意味で心に「上昇気流」など起きていなかった。20歳の私には暗闇などなかったし、すでに上昇気流が起きてたから。心身にガタが来始めて気流が停滞した今だからこそ胸に沁みるものがある。
それにしても私のように想像力や常識の欠けた人間はある程度の年数実体験を積まないと楽しめない作品がたくさんあるのだなぁ。また記憶が薄れた頃にもう一度見よう。