振り返ると一人目の子育て経験は生きたような生きていないような、同じ過ちを繰り返し、同じ夫婦喧嘩に明け暮れた、あまり進歩のない日常だったように思う。
家庭として得たものは多いが、個人としては失うものの多い経験だった。
まず手始めに頭髪。ただの老化に過ぎないが、毎夜の夜泣き対応が毛髪との別れに拍車をかけた感は否めない。
次に競争意識。
この春、最初に面倒を見た後輩が昇格してしまった。二回もたっぷり育休を取っているうちに先を越されてしまったのだが、自分でも驚くほどどうでもよく感じている。
最後に自己肯定感。不意に自分がつまらなく、価値のない人間に思えてきてしまった。
多分私は人間の価値を、発揮する能力の希少性、特殊性、困難性に求めていて、育児という営みにその要素を見出せなかったのだ。そう捉えている営みを自分に課し続けることで、自分の自己肯定感を毀損してしまった。つまらないこと、誰にでもできることをやり続けていると、行為がつまらないだけなのに、その行為の主体がつまらないものだというふうに自己認識がすり替わってしまったのだ。
生命の尊さやその成長に我が身を捧げることへの幸福はもちろんあるが、だからといって列挙した三点の逸失がなかったことになるわけではない。
この逸失にどのような意味づけをし、乗り越えるのかということについての算段が立っていないのだが、仕事の中で少しでも復元できるよう明日から頑張りたい。