un deux droit

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『顧客ファースト』の欺瞞

顧客ファースト。

あるいは、お客様第一。


こういう言葉を臆面もなく標榜する企業を私は信用していない。

もちろん一個人が己の信念として心のうちに秘めておく分にはどうぞご自由に、と思う。

しかしそれをわざわざ会社のホームページや社長の挨拶など顧客の見えるようなところに掲げて媚を売っている感じがたまらなく気持ち悪いのだ。

こういうのを掲げているような会社は、口だけでもよいしょしておけば良いと客を馬鹿にしているか、あるいは本当は全くの詐欺的な商売で、そのことに対する後ろめたさをごまかしているに違いない。


そもそも、顧客ファーストとは一体何を意味するのか。

顧客に対する従属的でへりくだった姿勢だけは伝わるが、その具体的な意味はその言葉だけではさっぱりわからない。

顧客とは誰を指すのか?何をセカンド以降に並べるって話なんだ?

そして一体、顧客の何をファーストにするのか?

利益か?満足か?要求か?判断基準か?


例えば会社の社長が朝礼で従業員に向かって『顧客ファースト』とのたまう場合は、従業員の権利や利益や満足は全て後回しにしますよ、あるいは一人一人の働く姿勢として、自分の権利や利益や満足を手放してひたすら顧客に尽くせ、という意味に聞こえる。

『だってお客さんが仕事くれなくなったらおしまいだもんね』という身もふたもない理屈の上に、対価を求めない無制限の奉仕を強いる。

そして処遇改善の訴えを斥ける方便としてもフル活用するのだ。自分の利益を考えている暇があったらお客様のために何ができるかを考えよ、という風に。

そのくせ社長から従業員の処遇改善を自発的に施す気などさらさらないのだからタチが悪い。


こんな形で『顧客ファースト』という言葉はいつだって経営者の都合の良い意味で消費されているのだ。


私が社長になることはないが、もしそういう責任ある立場だったなら、せいぜい『顧客尊重』くらいの穏当だが歯切れの悪い言葉を使うだろう。

その際も、『顧客』とは『当社のサービスを購入・利用しうるすべての人・組織』を指す単語ではなく、『我々が信じる価値を同様に価値だと感じ、そのサービスに誠意ある対価を払う人』くらいに厳密に定義するだろうし、『尊重』の意味するところも、『自分(達)の個人的な都合で顧客を騙して不要な商品・サービスを売りつけない

くらいが落とし所になるはずだ。


そしてそんなことをわざわざカッコつけて表明する必要もないので、あまりに自分本位な振る舞いをする人を糺す際に、ボソボソと耳元でつぶやく程度の利用価値の低い単語となるはずだ。


とにかく、厳密な定義ができない、かつ全方位的媚用語は、使用者の恣意的な悪用ができる百害ワードなので、使っているやつが冷笑される世の中になってほしいと思っている。