un deux droit

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父親は急に止められない

これから書くことは嫉妬である。先にそれを記しておく。

誰に対してか。それは自分以外の父親に対してだ。

何に対してか。それは父親でありながら好き勝手に飲み歩けることに対してだ。


事の始まりは2年前。長女の育児休業開けを機に地元の父親サークルに所属した。動機としては、育児にどっぷり浸かることにより味わった孤独を、同じ境遇の人たちとの交流で癒し、今後の仕事復帰に伴う育児との両立方法について、先人の知恵を乞おうと思ったからだ。


結論から言うと、私が勝手に思い描いていた父親は、そこにいなかった。


彼らは休日に子供向けのイベントを企画したり、座談会への登壇やセミナー講師として派遣されたりして忙しそうであった。

つまり、家事育児にイキイキとして従事する父親を増やそうという名目の団体でありながら、自分自身は育児家事に埋没せず、チャキチャキと自己実現に励む人たちの集まりだったわけだ。

当てが外れた自分はさっさと辞めたらよかったのだが、もしかしたらもっと子供が大きくなれば彼らくらいの時間的余裕が生まれるのかもしれないし、と思い、様子を見ることにしてしまった。

で、以降主要メンバーとFBで繋がり、彼らのご活躍を始終タイムラインで確認できる環境を呼び込んでしまったわけだ。


それで冒頭の話に戻る。

彼らは本当によく飲む。

企画の打ち合わせや懇親会や座談会と称して。

公式に挙げるだけで週一は飲んでいるから、もっとプライベートなものを入れたら週3は家を空けているに違いない。

その時間帯は、私が子供と妻に夕飯を用意し、皿を洗い、長女を風呂に入れ、次女にミルクをやり、長女のままごとに付き合いながら寝かしつけをしているとてもヘビーな時間帯だ。もちろん私だけでなく妻もフル稼働している。


私の肌感覚で言えば、その時間帯家を空けられるのは月1回だ。それも、少なくとも2週間前の打診と、当日の夕飯の事前準備、ワンオペにしたことによって生じた家事の遅延分の一切を引き受ける約束、その後の妻へのいたわりと惜しみない感謝と止む事のない小言への忍耐を付与した上で、空けられて3時間だ。

前後の移動で往復1時間を差し引くと、正味2時間一本勝負である。明らかに費用対効果が悪い。実際私がこの権利を行使したのは過去3回ほどしかない。

ちなみにそのうち1回はうっかり痛飲してしまい、開始が19時だったのにもかかわらず。気づけば時計は22時。そこから顔を真っ青にして22時半には帰宅したのだが、玄関に鎮座していたのは不動明王さながらの忿怒の表情を浮かべた妻の御姿。明け方4時過ぎまで自覚の無さを詰られ、本件に関わりのない日頃の鬱憤を吐き出され、思いつく限りのいわれのない誹謗中傷を浴びせられ、即死には至らないものの痣が残る破壊力のある家中のものを投げつけられ、起きてきた長女は号泣して私の代わりに妻へ赦しを乞うなど地獄絵図そのものであった…今でもトラウマとなってそれ以来1日たりとも夜間をプライベートな用事で空けたことはない。

まぁこれは自分が悪いので彼らに非難される筋合いはないのだが、それにしても飲みが多すぎる。一体どういう約束を各々の妻と取り交わし街へ繰り出すのだろうか。一度その辺りの話を切り出したのだが時間制限がある我が家の実情を吐露したところ「え?」とヒかれかけたのでそれ以上の掘り下げは自粛した。我が家の恐怖政治を無用に曝け出すことになるためだ。とりあえず私以外の全員が門限などないことだけはわかった。いつまで飲むのも本人の自由。帰る時間の事前申告もなし。なんてパラダイスだろうか。どれだけ稼げば私の妻はそんな自由を与えてくれるだろう。だって、「じゃ、今から俺が気の済むまで、父親業を一旦放棄ね。その間のことはよろしく。」と妻に言い放てるのだから。我が家なら帰宅時に妻の捺印済みの離婚届がダイニングテーブルに叩きつけられていることだろう。

仮に帰宅時間を約束してその約束通りに帰ることができたとしよう。その帰宅後は酔いが醒めるまで戦力にならない。夜泣きに起きれないはずだし、起きれても酒臭いし普段よりクオリティが低くて寝かしつけもままならないはずだ。

そんなわけでガチで育児家事をしている私からすれば彼らを理想的な父親とみなすことはどうしてもできない。だからあまりでかい顔をして父親やってますみたいなアピールをして欲しくないのだ。育児家事は常に時間と場所を拘束され続ける絶え間ないサービス業だ。自分がやりたい時にやりたいだけできるようなお気楽なものではない。あらかじめストックもできない。妻にも自由時間与えてますと言うだろう。でも本当に同じ頻度と同じ予算を平等に与えているのか。与えているとすれば家計は崩壊していないか。崩壊していないなら本当に勤労しているのか。不労所得者ではないのか。色々と腑に落ちないことばかりである。

とにかくこれは嫉妬だ。私の妻は酒も飲まないし友達と頻繁に出歩いたりもしない。私よりも稼いでいる余禄は自己裁量で使って構わない。きっちり家事育児も恙無くやるのだ。おかげで私は飲酒してもシラフと同じクオリティを求められるんで結局子供が生まれてから3年で飲酒回数は両手に収まる程度だし、量も飲みたい量の半分以下だ。友達に誘われても8割がた断っている。第一私が月に自由に使えるお金は1万円だ。散髪や通院もそこに含まれるからおちおち飲んでもいられない。そして私の家事育児のクオリティは妻よりも低い。妻は睡眠不足でもクオリティが落ちない。私は半分以下になる。それでも男の平均より確実に上だが妻以下だ。妻は相対評価はしない。そのクオリティの低さを、慎ましやかな生活を送ることで免責されている。こうして多大な自己犠牲の上になんとかこの平穏な日常をなんとか維持している。

ほんと世の女性はもっと蜂起してほしい。私の妻くらい男を叩きのめしてほしい。絶対夫にちょろまかされてるから。そうして本当の水準での私の男仲間を量産していただきたい。私はいつまでも孤独だ。